近年、“多様性”という言葉に注目が集まっています。
国籍、仕事、宗教、障害、性など、人には様々な特性があり、過去にはそういった特性が原因で差別やいじめが当たり前のように行われてきました。
人々の多様性を認めていこう、という動きは日本ではまだ始まったばかり。特に「性」の多様性に関して理解が広まってきたのは、ここ数年間のことであるため、教育・保育界には浸透していない考え方でしょう。
————乳幼児の保育において、性に関する知識は必要ない。
決してそんなことはありません。
性別に対する固定観念が誰かを傷つけてしまったり、子どもたちの可能性の芽を摘んでしまうことがないよう、保育者もジェンダーについて正しく理解する必要があります。
そもそもジェンダーってなに?
ジェンダーとは“社会的性役割”のことを意味します。人間は長い歴史の中で、生物学的な性別に基づいて、服装や髪型、職業選択、家庭の中での役割が決められてきました。以前は保育士が「保母」と呼ばれ、女性の職業と見なされてきたことも、例の一つとして挙げられます。
近年は、生物学的な性別に捉われることなく職業を決定したり、ファッションを選択しようという考え方が広まってきています。
また、LGBTという言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。これは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの略称です。体の性と心の性が同じでない人、異性ではなく同性を好きになる人、両性とも恋愛対象に入る人など、人の性は「男」「女」以外にも様々な形があるのです。
子どもたちの「性」をどう捉えるか
乳幼児に向き合う保育者にとって、性教育なんて無縁のテーマのように感じている方もいると思います。しかし、欧米では「性教育は0歳からスタートする」と考えられている国もあります。保育者ができる援助にはどのようなものがあるでしょうか。
子どもたちが自分の体を好きになれる援助
小さな子どもたちであっても、男の人と女の人の違いに気づきます。そして、自分の体に興味を持ちます。2歳くらいになると、男の子と女の子の生殖器の違いに気づき、頻繁に触ったり覗きこんだりする子もいます。
そんな姿を見たら「恥ずかしい」「汚い」という言葉は絶対に言わないようにしましょう。「ここは、おしっこが出るとても大切なところだよ」と伝え、子どもが自分の体を自分で大切にできるような働きかけを考えていきましょう。
男の子がプリンセス、女の子がヒーローでも良い
男性は青、女性は赤。といった性別に関する固定観念は、誰もが持っているものだと思います。今の社会がそうである以上、男性の在り方・女性の在り方が自然と刷り込まれてしまうのです。
しかし、子どもたちにはなるべく固定観念を排除して関わるようにしていきたいですね。ヒーローごっこをしている女の子がいても「かっこいいね」とありのままを認めてあげましょう。おままごとで男の子がお母さん役に立候補したら、まずは保育者が歓迎することが大切です。
3歳くらいになると「男の子がママなんて変!」と指摘する子がいるかもしれません。「男の子がママでも、女の子がパパでも良いんだよ」を教えてあげましょう。
多様な性指向・家族のあり方について知る
現在、日本では同性婚は認められていませんが、渋谷区の制度を皮切りに同性同士のパートナーシップが条例で認められ始めています。
子どもの保護者は、パパ・ママが当たり前ではありません。パパが二人、ママが二人の家族もいます。日本では同性同士で養子を持つことや人工授精が認められていないため、法的にはシングルマザー(ファザー)と知人の同性などのスタイルで子育てを行っている人々が多いのです。中には、ゲイの男性二人とレズビアンの女性二人で協力して育児を行っている家庭も。
これは、従来の家族制度に捉われない新しい家族のスタイルです。
歴史の古い保育現場では、どうしても「父・母・子」の形を理想的と捉えがちですが、そのような考え方が時には保護者や子どもたちを深く傷つけてしまう可能性もあるのです。
ジェンダーの問題は、単純に性の在り方を問うだけではありません。
法律で「まだ」認められていない家族とどう向き合うか。それは、これからの保育士の大きな課題の一つではないでしょうか。
“パパが二人”“ママが二人”であっても、他の家族と変わらずに受け入れて支援を行うことができる保育園が、日本でも当たり前になる日が来ることを願います。
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佐藤愛美(さとうめぐみ)
保育ライター。保育園や子育て支援施設にて担任や育児講座等の業務を経験。2016年にはフリーライターに転身。保育園の取材記事やコラムなどを中心に執筆し、現在に至る。 保育の仕事の魅力や、現場で活躍する保育者たちの生の声をお届けします。 |
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