保育者のたまごである保育実習生。
指導をする保育者は、現場で働く先輩として、どのような姿を見せ、どのように指導したらよいでしょうか。
保育実習の経験が実習生にとってより有意義なものになるように、そして指導者である先輩保育士にとっても自己の成長に繋がるようにしたいですね。
ここでは、実習生が悩みやすいポイントや、指導のポイントなどをお伝えします。
保育実習生にありがちな悩みや疑問
以下は、保育実習を経験した学生たちから聞いた疑問や悩みの一例です。
- 先生たちが常に忙しそうで、質問したくてもできなかった。質問のタイミングが分からなかった。
- 子どもは大好きなのに、みんなの前に立つと緊張してしまう。保育の仕事は向いていないのかも……
- 食べ物の好き嫌いや虫嫌いがあり、活動を全力で楽しめなかった。
- 雑務ばかり任されて子どもたちと関わる時間が少なかった。
- 実習録の作成が大変。赤字の修正と、新規の記録の作成で寝る時間がない。そのため日中の実習もすぐに疲れてしまう。
あくまでも一例になりますが、自分自身の実習生時代のことを振り返ると「私もこんなこと感じたかも」と共感する点があるのでは?
このような疑問や悩みをできる限り解消することで、実習がより有意義なものとなるはずです。そのためには、園側の丁寧な事前説明や適切な指導が大切です。
指導のポイント1「事前の説明と意識共有を丁寧に行う」
実習がスタートする前にはオリエンテーションを設けるのが一般的です。実習中の流れや持ち物、実習録の作成・提出方法の説明に加え、園全体で大切にしている保育方針や実習を行うことの意義、質問の仕方(質問可能な場所や時間など)を伝えることで後々の認識の齟齬を減らすことができます。
失敗に過敏な実習生も珍しくありません。実習は失敗が許される場であり、思い通りにならないこともすべて学びに繋がることを伝え、職員間でもその認識を共有することにより、のびのびと実習に臨むことができるかもしれません。
指導のポイント2「実習生の苦手に寄り添い克服の手助けを」
子どもと同じく大人にも個性があります。人前に立つのが苦手、大きな声が出しにくい、虫が嫌いなど、保育の仕事をする上でハードルになってしまう特性を持っている実習生もいます。こういった苦手は経験を積むことで克服することが期待できます。実習期間中に克服できる人もいれば、就職後に何年もかけて成長していく人もいるでしょう。
指導する保育者は、緊張しにくい短い手遊びや子どもたちが気に入っている絵本の読み聞かせなどから挑戦してみることや、虫が苦手だったらまずは図鑑を用いて知識を得ることからスタートしたりと勧めてみるのはいかがでしょうか。また、1人でやるのが心細いようなら、慣れるまでは保育者と複数人で行うという選択肢もあります。
「実習なんだから一人で乗り越えて」と突き放すよりも、苦手なことに寄り添ったアドバイスをしたほうが実習生自身の学ぶ意欲も湧いてくるはずです。
指導のポイント3「裏方の仕事の重要性を知ってもらう」
実習生の中には「保育の仕事=子どもたちと関わる」というイメージを持っている人も少なくありません。しかし保育者の業務は、書類の作成、掃除、保育準備、玩具や遊具の整備・点検など子どもたちと関わること以外にもさまざまなことがあります。
「雑務ばかりでつまらない……」と意気消沈してしまう実習生もいるかもしれません。しかし、裏方の仕事を丁寧にやるからこそ、子どもたちが安全・快適に生活することができます。また、保育の準備に力を入れることで、子どもが遊び込むための土台を築くことができます。
実習に入る前に裏方の仕事の重要性について実習生と共有することをおすすめします。
指導のポイント4「実習録のアドバイスはシンプルに」
実習録の作成は実習生の悩みの種といっても過言ではありません。慣れない記録を書くことは容易ではなく、時間もかかります。
子どもの姿を予測して計画を立て、実際の姿をもとに反省をして次回に活かすというPDCAは保育士の大切な仕事です。その大切さを実習生にも分かってもらいたいですね。
ただ、実習録作成に時間がかかり過ぎてしまい睡眠時間がとれないという状態は避けられるように指導者が配慮しましょう。提出の締切にゆとりを持ったり、フォーマットをシンプルなものに改善したという園もあります。
修正の仕方に関しては、簡潔に要点を伝えるのがポイントです。あれもこれも伝えたいという思いから、長々と赤入れをしてしまいがちなのですが要点が伝わりにくくなります。伝えたいことは簡潔に書き、ダメ出しだけでなく実習生の成長や気づきに関しても評価するようにします。
指導のポイント5「よいところを言語化して伝える」
実習で思うように力を発揮できず「保育の仕事は向いていない」と自信を失ってしまう人もいます。実習生を指導するのは、子どもたちを保育するのと似ているところがあります。
一人ひとりに持ち味があり、得意なこと・苦手なことは違います。声が小さい人でも、ピアノが得意かもしれません。製作物を作るのに時間がかかってしまう人でも、子どもたちを惹きつける素晴らしい作品を完成させられるかもしれません。
「○○さん、こんなことが得意なんだね!子どもたちも喜んでいたよ」
「そんな視点があったなんて、勉強になったよ」
「ピアノが苦手なのに1週間ですごく成長したね」
といったように、きちんと言語化して伝えるようにすることで、保育を学ぶ気持ちも高まるでしょう。
プロの保育者であっても、実習生から学ぶ姿勢を忘れない
実習生がやってくると「教えてあげよう」という思いに捉われてしまいがちです。しかし、実習生から学べることはたくさんあります。プロの保育士ではないからこそ、ありのままの視点で子どもたちを観察し、新たな発見をしてくれるかもしれません。また、子どもたちは年齢が近い実習生に心を開き、いつもより活き活きとした姿を見せてくれるかもしれません。同じ保育現場に入った仲間として、実習生と意見交換をしてみるのも面白いですよ。
実習生にとっても保育者にとっても、実習の経験が将来の糧となるように、どんなアプローチができるかを園内で話し合ってみるのもおすすめです。
(記事公開日 2017年06月08日)
(記事更新日 2024年05月09日)
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佐藤愛美(さとうめぐみ)
保育ライター。保育園や子育て支援施設にて担任や育児講座等の業務を経験。2016年にはフリーライターに転身。保育園の取材記事やコラムなどを中心に執筆し、現在に至る。 保育の仕事の魅力や、現場で活躍する保育者たちの生の声をお届けします。 |